在宅での情報共有
この項目では、在宅生活を支援するために家族をはじめ関係する支援スタッフ間での情報共有の方法について具体的な書式も提示しながら各生活期における注意点などを解説します。
在宅生活を基本としながら、生活機能維持や介護家族のレスパイトの目的で複数の医療、福祉、介護サービスを利用する高齢者は今後増加することが予測されます。その状況では各事業所での気づきや他事業所、家族へ伝えるべきことなど、情報共有が非常に重要となります。「地域で在宅ケアを支える」という地域包括ケアシステムを潤滑に機能させるため本手引きを参考にしていただければ幸いです。
各事例で各自が一般(市販)のノートを用いることも多いと思いますが、地域で統一した書式にするメリットもあります。例えば地域によっては同一規格のファイル(サイズ、カバーの色)に共通の記録用紙を綴ることにより、それぞれの施設(医療機関、サービス事業所)でファイルの存在を認識しやすく、また記録記入も容易となっている先行事例もあります。複数の介護サービス、例えば定期でデイサービス、時々ショートステイを利用されている場合は「赤いA4サイズの情報共有ファイル」と家族、各事業所が認識していれば自宅を出るときの準備も、帰ってきたときのサービス利用期間の状態確認もスムーズになります。
(情報共有シート イメージ) |
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身体機能や生活機能、摂食状況や排便状況、外傷や褥瘡の有無、それらの処置方法の統一などは特に重要な情報です。また、医療専門職(医師、看護師、リハビリ専門職など)も積極的に確認、記載するべきだと思われます。通常外来受診時や在宅訪問診療時などの短時間ではイメージすることが難しい本人の日常生活を知るための有用なツールであるし、日頃直接対面して情報を得ることが難しい医師からのメッセージが記載されていることで、各事業所間の情報共有が進み有用性が実感できればさらに記入する際のモチベーションが高まります。そして、レスパイト入院という方であれば、退院時に到達(あるいは維持)するべき身体機能、生活機能の具体的なイメージが湧くことはアプローチの方法を適切に選択するために非常に重要です。
家族にとっては「交換日記」のようなイメージで記載していただけるよう、フォーマットをいくつか示します。現場に合わせて改編の上で使用していただければ幸いです。
生活の各段階における記入の注意点
~生活移行期(混乱期)~
病院で治療が終了となっても、入院前より身体機能が低下した状態で自宅退院になるケースは多いと思われます。そのような場合、以前の身体能力のイメージとの違いから退院直後には生活が混乱する時期があります。この混乱について身体的な実行能力だけでなく、ご本人にとっては帰ればできると思っていたことができないという心理的なショックや、退院前に想定された生活スタイルが帰ってみるとしっくりこない場合もこれに該当します。
このような場合にも、この情報共有ツールが役立ちます。この時期には転倒や、心配からくる過介護が問題となることが有りますが、状況を共有し対処方法を書き込むことで解決することが容易となります。例えば、家族やご本人・あるいはケアスタッフが、やりにくい動作や違和感がある動作、気になる動作について箇条書きでも良いので記入しておきます。そして、その方にあった福祉用具の使い方や、机の位置や手すり代わりに使える家具など、ご自宅の環境で最適な方法をリハ職等が検討し情報共有することで自宅環境へ徐々に慣れていくことを支援出来る事でしょう。
~生活安定期・生活拡大期~
自宅の生活環境に徐々に慣れて生活が安定する時期があります。この時期には、おおよそ屋内の移動方法やトイレ動作、食事に入浴などサービスを含め一連の生活活動のやり方が確立し安心して過ごせるようになってきます。ご家族も自身の生活と介護に折り合いをつけながら生活に慣れて生活全体が安定しやすくなります。
一方で生活が安定すれば、庭の草取りや田畑をみたいなどその範囲を広げていきたいという希望が聴かれ生活が拡大する場面が見られます。生活が拡大すると家族にとっては、せっかく安定した介護と自身の生活のバランスに変更を余儀なくされる場合があり調整が必要になることもあります。
このような場合、本人が希望する新たな活動を記入しておくことに加え、その活動に対する家族の思いについてもこのツールでやり取りすることで適切に支援を進めることが容易になります。
さらに、日々訪問するスタッフは、家族にも言えない思いを打ち明けられる場合があります。特にご本人がやりたい活動があるにもかかわらず、介助者にさらなる負担を強いることになるかもしれないと遠慮されている場合などが考えられます。この思いを共有し、家族の負担を許容できる範囲を確認しながら、地域の資源を使って、どうすればその活動が実現するのかチームで考えるきっかけにもなりえます。
このような取り組みを長期的に行うことでご本人の趣味や趣向、日々大切にしている価値ある活動やそのやり方など、ADLだけではわからない周辺活動についてもその推移が時系列で分かるようになります。このことは、関わるチームが経過を振り返りご本人やご家族にとって価値の高い支援を行う材料となります。また、対象者にとって価値の高い活動を都度記入しておくことで、将来施設入所となった場合にも、次の支援チームに情報が引継ぎやすくご本人の生活上の価値観を大切にしたケアを提供できます。
対象者が日々何を思いどのようにして過ごしていきたいのか、関わるスタッフや家族が気を配りながら人生を主体的に歩める支援を行うツールとしてご活用ください。
~生活機能低下期~
生活の安定と拡大を経てさらに生活は安定して経過する場合が多くあります。しかしながら、加齢によって身体能力は徐々に低下してきます。その低下の程度は状況により様々ですが、ある時から今までの低下速度と比べて急速に低下し連続的にADLも含めて変化がみられる時期があります。日々変わるご本人の状況や生活動作のやり方、介護の方法について情報共有することは非常に有益です。
この時に注意すべき事として、リスクばかりを強調した記述だけになると、ご家族やご本人に過剰な不安を喚起してしまう事があります。このような場合、医療チームへの必要な情報を記述したうえで、できる事や残された能力に注目するような記述に努めながら、介護法方法の変更点について具体的に記入することが大変重要です。
~終末期~
この時期では、グリーフケアも念頭にご本人と家族が豊かな関係性を維持向上できるように支援することが大切です。例えば、状態は安定しているものの日々食事量が少なくなっているときに、介護される家族が不安になることがあります。家族は心配して、できるだけ多くを食べさせようと一生懸命ですが、ご本人がこれを苦痛に思っている場合もあります。このような時、家族かそれを代弁した訪問スタッフがこのノートに書き込みをしましょう。それを見た主治医が状態についての解釈をお伝えすることで家族は安心される場合が多くあります。
あるいは、自分史をまとめたいと希望がある場合、自身で執筆する体力が無い場合は支援者が聞き取り、紙面に起こしてこのノートに挟む支援をすることがあります。これにより、これまで積み重ねた記入も含めこれまでの生活をまとめた自分史となります。特に生活安定期や拡大期に記録された感情が動くエピソードを記入できていればより一層自分史の価値が高くなります。この記録を読み返す取り組みも時によってはご本人の人生をまとめていく支援につながりご家族のグリーフケアに貢献することになるかもしれません。
~まとめ~
このように生活の各段階で、ご本人の思いや生活に寄り添いながら各自で気が付いた点を記入していきます。さらに、ご家族の中には記載することが負担になる場合があることから、聞いたことをスタッフが代筆するなどの配慮も必要と思われます。
最後に、ご本人とご家族を中心にして、これまで述べてきた注意点にご留意いただき、人生の最後を豊かに過ごす支援のためのツールとしてご活用いただければ幸いです。